ミニトマトの鉢

読書レビューです。

リスクに背を向ける日本人 山岸俊男 メアリー・C・ブリントン著

日本に戻ってから1年が過ぎたが、息苦しさのようなものを感じることがあった。知り合いか知り合いでないかが大きく仕事のやりやすさを左右する、というような。その思いの理由を探る思いで日本人論を何冊が読んできた。阿部勤也氏、山本七平氏の本だ。

 

本書は日本人とアメリカ人の社会学者である著者が、対談形式で日本人社会の性質をアメリカ人の社会のと対比させることで浮かび上がらせる。

 

日本社会は集団主義的秩序を重視する。よい例は村八分だ。自分たちの集団内部で相互に監視し合い、評判の悪い人は排除される。または排除される可能性があることを集団の全員が共有することで組織が維持される社会である。集団の内部は強いきずなで結ばれ、もしもの時のセーフティーネットになる。そこでは空気を読む、社会関係を失わないことを重視する、環境を制約条件を見なす、といったことが特徴とされ、人間の性質はprevention志向になる。この秩序を支える思想は統制の倫理である。主君が家臣を保護する代わりに家臣は忠誠を誓うことが求められる無私の倫理である。

 

対してアメリカ社会は司法による秩序を重視する。多民族国家を統治したローマ帝国時代からの流れであり、多様な文化が共生するためには社会設計思想に基づいた法律が必要で、それが集団の論理より優先される。そこでは個人は独立的である。環境は目標を達するために働きかける対象とみなされ、人間の性質はpromotion志向になる。独立しているが、個人では何も達成できないことを理解している人たちが周囲に対しシグナルを出し、お互いの利益に叶うよう協力する。法による秩序を支えるのは市場の倫理である。法律で最低限のルールを決めておいて、あとはお互いの利益を満たすように行動する。

 

本書で参考になったのは、日本人の性質を浮かび上がらせただけでなく、その性質がいくつかの社会問題の根源になっている点を指摘していることだ。

 

例えば会社にしがみつく中年社員、高齢化社会での労働力不足、年金の問題。日本では流動的な労働市場が整備されてなく、職業訓練制度も整備されていないので一度会社をやめたら、転職が難しい。そこで中高年社員は会社への貢献度が下がっているにもかかわらず会社にしがみつくしか選択肢がない。セーフティーネットが会社という集団内部に張られているのである。労働市場や職業訓練を整備させ、セーフティーネットを個々の会社を含む社会全体に張り巡らせれば、主要産業の変化にともなって新たに技能を身につけ、職を移ることができる。高齢者は50歳を過ぎてからも新たな技能を身につける必要が出てくるが、能力に応じて70歳までも働けるような世の中になり、少子化の課題である労働力確保が可能となる。また、年金世代を支える生産年齢人口の幅が70歳まで広がることにより、年金制度も持続可能になる。

 

他にも女性が子供を産まないのはなぜか、といった話もあるのだが、私がこの点に関心をもったのは、最近私の会社がリストラをし、ある社員が対象になったためである。彼は高学歴であったが、私からみるに能力もかなり劣化しているように見えた。一方で配置転換や教育の機会が与えられずそうなったとすれば、会社の側にも責任があり、時間的猶予も十分に与えずリストラするのは理不尽に思えた。再発を防止するような人事制度の改革も検討するべきと思うが、そのようなことはまだ耳にはいってこない。ブローバル化が進む中、このようなことは数年おきに起きる可能性が高い。

 

本書の主張は、多国籍の人々が協業するグローバル化になじむ倫理は市場の倫理であり、それにふさわしい司法社会を基盤にもつ社会の整備が必要だということだ。日本企業も集団主義的秩序を維持できなくなってきており、アメリカ型の秩序に近づいていく。それを見据えて個人の能力開発を進めていきたいと思う。